○マイティ祐希子(45分29秒.体固め・フライングニールキック)桜庭愛●
『控室』…あんっ、あ、あふっ、ふぅ…っと、切ない吐息をあげて、赤い髪の女性はビクッと身震いした。控室のベンチに腰掛け、
相手の愛撫に身体を震えさせて頬を赤らめている。
…試合まで、数十分の余裕がある。濃厚な舌を絡めるようなキスのあと、ふたりの視線は交錯した。その視線は今、スポットライトに照らされたリングの上。
対峙したふたりのレスラーは身構え、相手に掴みかかる。
試合開始のゴングの後、一分間…お互いの姿を確かめるように張り詰めた緊張を破るように。お互い、膂力を込めて全力でダッシュ。
「うぐっ!」
マイティ祐希子の大きく振りかぶったラリアットが桜庭愛の黒髪を大きく揺らす。
痛みに蹈鞴を踏みながら追撃したきた祐希子のエルボーパッド。
肘打ちの連打を受けながら下腹部に膝蹴りを叩き込み、苦悶の表情になって一瞬、動きのとまったマイティ祐希子の後頭部に体重を乗せたハイキックを叩き込んでみせる
「あがっ、あああっ…」
甲高い打撃音。ビクッと身震いして蹈鞴を踏んだ祐希子の背後を掴みバックドロップ
マットに叩きつけられる祐希子を一瞥し、ロープに跳んで胸元にドロップキック。
「…ふふっ、やるじゃない。流石、愛ちゃん」
立ち上がろうとしていた中腰の状態で再びダウンを喫したマイティ祐希子。
…流れる汗を乱暴に手櫛で梳きつつ顔を上げ、
打撃で攻め立ててくる愛の蹴りや掌底に涎や汗を周囲に飛ばしながらその瞳は深く、顔には笑みが宿っていく。水色のシューブトップのハイレグは所々に打ち身で腫れ、青痣になってきていた。フットワーク…。
衝かず離れずといった絶妙の間合い。マイティ祐希子の攻撃の突破口を潰し、
八極拳の近接打撃でスタミナと痛みを蓄積させていく愛。
(…愛ちゃん、私のこと、わかっているなぁ)
痛みに顔を曇らせつつ、それでも一歩も引かずに前に踏み込むマイティ祐希子。
コーナーに追い詰められ、桜庭愛が放った膝蹴りを紙一重で避けて自爆を誘い、
「あがっ、いたっ、あうぅぅうぅ…」
コーナーに膝を強打し、痛みに顔を顰める愛の背後に腕を回し、後頭部をマットに叩きつけるジャーマンスープレックス。愛の長い黒髪がマットに落とされ散らばる。
レフリーがすかさずマットを叩くが、そんな事では試合は終わらない。
…それをふたりはわかっている。
体勢が崩れ、再び、向かい合うように視線が交錯した。
ふたりは相手しか見ていない。試合の喧騒も歓声も、ふたりの間には届いていない。
意識は常に…相手のみに向けられている。
「…いくよっ、祐希子ぉぉ!」
「こぉい、桜庭愛ぃぃっ!」
お互いに顔をあげた。汗だくの肢体。上気し火照った身体でぶつかり合う。
マイティ祐希子相手に一歩も引かず、愛はマイティ祐希子の二回目のフェイスクラッシャーを空振りさせると懐に深く踏み込んで得意の中国拳法『鉄山靠』を爆発させる
これにはマイティ祐希子も場外まで吹き飛び、立ち上がろうとするものの、
膝が笑ってしまい身動きができない。そこに桜庭愛のスランダイブ式セイトーンが身体を押しつぶすようにきまり。場外戦へ。
「あがっ、あ、ああー」
場外では喧嘩慣れしている桜庭愛がマイティ祐希子を圧倒。
観客席とリングを隔てる鉄柵にマイティ祐希子の身体を叩きつけ昏倒したその顔に膝蹴りの連打、連打…。
怒りの形相で立ち上がってきた祐希子のタックルをマタドールの闘牛士よろしく、
ひらりとかわして鉄柱に激突させ、倒れ掛かった祐希子の背後を掴むと
場外で、投げっぱなしのジャーマンスープレックスで観客席に放り込む。
セコンドたちの機転で観客は退避した空の座席にマイティ祐希子の身体が放物線を描くように放り込まれパイプイスの瓦礫に埋もれる形に…
「ん、どうしたの。これで、終わりかなー?」
マイティ祐希子を鼓舞するようにリングに戻った愛は場外で昏倒している祐希子にエール。ガラガラとイスの瓦礫を払うように立ち上がってきた祐希子の視線。
凶暴な肉食獣のような殺気を帯びて…。
「ふふっ、楽しい。やっぱり、愛ちゃんとは楽しいねぇ」
愛はリングに戻ってきた祐希子に再び激しい打撃を浴びせるがそれを意に返さず、
逆に桜庭愛の打撃をいなし9分過ぎにはSTFに捕らえる展開。
あ、ああああああああああああああーっ。
桜庭愛の苦悶の悲鳴がマットに響き渡り、爛々と凶暴性を増していくマイティ祐希子ロープブレイク。歯を食いしばりロープに手をかけた愛。
絞め落とさんばかりのきつい絞め技を耐えてふりほどき、そこから逆襲に転ずる。
そして、疲労困憊になったふたりは、
そして、疲労困憊になったふたりは、
愛の蹴りを避けてフロントスープレックスに叩きつけ、
追撃しようと掴む祐希子に愛はラリアットで逆に後頭部をマットへ。
悶絶して身体を小刻みに痙攣、痛みに身震いしている祐希子の前髪を掴んで強引に立ち上がらせようとして、逆にがら空きの腹部にめり込むボディブローに両目を見開き涎を噴出し悶絶。引きずるようにマイティ祐希子はコーナーポストからミサイルキックを浴びせ、押さえ込み。
愛の身体はそれを拒否、体勢が崩れる。
なおも桜庭愛は瀕死の身体で立ち上がってくるところを身体のすべての力を振り絞るように大声を叫びつつフライングニールキックで、桜庭愛の意識を断ち切り、
マイティ祐希子が3カウントをもぎ取った。
…長丁場の試合。レフリーに手をあげられつつも
息苦しくしていた勝者はゴングとともに失神、ふたりとも担架で試合会場を後にした