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Channel: 美少女レスラー桜庭愛♪
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運命の夜へ

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イメージ 1「はぁっ!」
裂帛の気合の籠もった声とともに繰り出した上段回し蹴りを
相手は避ける。爆発的な踏み込みからの一撃。
それを紙一重で避けた相手を愛は一瞥し笑った。
繰り出す拳の一撃、一打に効果はなく、掴もうとすればその手から逃れる相手にその笑みを深くする。

「格好からは推察するしかないが、
お前のそれは正統な八極拳だな・・・桜庭愛よ」
身構え、相手を睨む。
「ふふふっ、よい殺気だ。私を殺すか?」
その問いにこくんと頷いた。・・・確かに正義の味方として「殺す」事は間違っている。だが、目の前に対峙し、黒い霧を纏うその男の企みを知った今、この男を赦す。
・・・その事は間違っているように思えた。
「いいだろう。お前は私によく似ている。若い頃の私に」
構えは解かない。ただ、男に興味が湧いた。
聖杯戦争の監督役、その肩書きの男。言峰騎礼、そう名乗った出会いから・・・

「あれを、あの聖杯の中身、あれの誕生を私は望んでいる」
「・・・あなたはおかしい。その考えは間違っている」

私たちは対極。ともに八極拳の使い手だが、その意思は正反対。
相手は黒。太極の位置と同じように神父の望みを理解できないし、その考えを共感できない。・・・倒すしかない相手がそこにいる。

「・・・桜庭。どいてくれ、そいつはおれが」
咄嗟に助けに入ったが、「この世すべての悪」が完成する前にそれを叩かなくてはいけないのは魔術遣いである衛宮士郎では無理だ。
「・・・衛宮くん、手をだして」
彼は遠坂凛の魔術回路を移植されている。
今は魔力が十分ではないが、その回路に魔力を充填できれば、一回程度、固有結界を発動できる状況は整うだろう。

「・・・あなたに私の全てをあげる♪」

熱を帯びる結んだ手。そこに流れ込む魔力の奔流は空っぽの回路に注ぎ込まれる。
・・・すべての魔力を譲渡。これで衛宮士郎は戦える。
「馬鹿っ、お前がこれじゃ、闘えないじゃないか」
「もうっ、馬鹿はどっち。私の魔力を上げるからさっさとあの聖杯をとめて来なさい。・・・男の子でしょ。・・・だから、ここは私に任せて」

「ほう、魔力のすべてを譲渡。魔術師が魔力を使わずしてどう闘う」
嘲笑。そうね、笑っていいわ。私だってこんな博打、笑うしかないもの。

でもね、言峰神父。あなたが滅びを望むのなら、私はあなたの前に立つのが道理。

長い黒髪がすべてを病ませる風に揺らいだ。
胸元に白いラインの入った蒼いハイレグ水着、その姿で身構える。

「通常攻撃で、なんとかするわ♪」

その言葉とともに柳桐寺に拳戟の音が響き渡った。

飛来する黒鍵。魔力で編まれた儀式剣。
聖堂協会の代行者が使う武器だ。その投擲を身体を捻って回避。
避けて崩れた身体に言峰神父の中国拳法の突きが襲い掛かる。それを飛び跳ねるように回避し距離を取る。
「フッ、やるではないか、小娘」
「どうも。神父だって」
軽口に軽口で応えるが間合いに入れないのは痛い。
神父が短剣状にした黒鍵を投擲、それを身を沈めるようにして前に踏み出す。
神父の拳が縦手を作った。全身の力をこめて踏み込んでくる。
「ぐはっ、」
眩暈を覚えた。
少女の蹴りが肩にあたる。
紙一重で、中段突きを身体を反転させて避けながらの攻撃。
その足が首に絡まり、一気に言峰の後頭部を砂利の境内に叩きつけた。

拳が当たる瞬間。身体を反転させフライングニールキック。
その反動を利用してのフランケンシュタイナー。

「ぐふっ、まさか・・・プロレス技だと?」
倒れる男は驚愕に顔をあげた。倒れている男と視線があう。
フランケンシュタイナーをはなったが故に、私も倒れうつ伏せの状態だから。
「こんな・・・こんな最後なのか?私の十年間は」

今際の際の怨嗟の声を見下ろしながら私は告げた。
「正義の味方に倒されたのだから、順当の結末でよ。悪党のおじさん」


長い夜が明ける。
少し、肌寒いなと感じる。
第五次聖杯戦争、その勝者は誰もいない。ただ、正義の味方がいただけだ。
長い黒髪を靡かせながら・・・桜庭愛は遠くから聞こえるこの戦いに参加し生き残った少年の声にその方向に顔をむける。

あの老人が妄執してやまなかった栄誉も、
銀髪の剣姫が残した思いも、今の自分には不名誉そのものだ。

それでも、桜庭愛は生き残った。
「勝者」にはなれなかったが、この聖杯戦争に参加したという証は残したのだった

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