地面を蹴り、さらに踏みしめる足に力を込める。
一歩、一歩・・・それが駆ける足を駆動させ黒髪の少女は疾走した。
逢魔三郎の手が手袋を地面に投げ捨てるそれは愛の目前、魔人と少女の中間点。
地面に落ちた手袋がぼこりっと身震いした。
それは異様に身震いするように振動しそこから水が溢れ出す。
それは最初、水溜りのようだった。それが細波のように広がり足元は水飛沫と波紋を広げる。いつの間にか、雨の中を走っているように足元は覚束ない。
手袋はさらに震えるたびに水嵩は増していくような感覚に捉われる。
「・・・かまわない」
水で行動を阻害する呪であろうとも渡りきってしまえば・・・?
・・・渡りきる?自分で考えた行動に違和感を覚えた。
いったい何が自分をこの状況に追い込んでいるのか?
足が何かに引っかかった・・・
足元に視線を落とし、少女は固まった。自分の足首が何者かに掴まれている。
それは鱗がびっしりと生えた、女の手であった。
その手が、躍動するように少女を投げ飛ばす。
「きゃっ!」
愛は後ろに投げ飛ばされた。
途中、体勢を戻そうとしたものの身体は水面を飛ぶ水切り石のようにバウンド。
少女はずぶ濡れになって立ち上がる。
逢魔三郎の前にひとりの少女が立っていた。
いや、全身、ずぶ濡れで、水の中から上がってきたという方が正しい表現か。
長い緑の長髪。しかし、人形のように無表情で生気が感じられない。
『河童よ』
逢魔が少女をそう呼んだ。
名には『言霊』が宿る。それは呪の基本。その人形は自分の名を得た。
その無表情だった相貌に生気が宿る。生命の鼓動がはじまった。
人形の身体が人間にかわっていく。
節々に関節がうまれ、人間らしい肌触り、質感。そして・・・なにより乳房が膨らんできていた。その少女は逢魔三郎を守るように私の前に立ち塞がる。
「・・・桜庭よ。よく聞け。」
おれは十二神将によって守られている。その十二神はこの群馬の地に語られる伝承や都市伝説、怪異譚を吸収し具現化する呪。
「おれを倒したければ追ってこい」
そこに妖怪、怪異の名を冠した十二人の少女がおまえを阻むように設置した」
だが、おれのサーヴァントは自然そのものを有する怨霊。
おまえに対する選りすぐりのものどもよ。その女どもを倒しおれを追って来い
踵を返し、逢魔は笑う。
闇に消えるように姿をくらます男を逃がすわけには・・・
しかし、この怪異を能力とするという少女を野放しにもできない。
身構える。十二人の少女の姿をした妖怪。伝承の怪異と熾烈なキャットファイトが始まった。水面の映し出されたこの幻想的な舞台で・・・